ドリー夢小説

うっすらと浮かんだ涙を強引に腕で拭うと、
はゲルダをぎゅっと握りしめ、ショップへと入っていった。


はじめてのぼうけん


初めてとケンカした。
「おれ、一人で集められる」
「……まだスキルもまともに覚えてないのに無理だろ」
「だけど……せっかくのイベントだし」
また子供扱いされたような気がして、
悔しさのあまり、語尾が弱くなったはそれっきり俯いたままじっと地面を見下ろしていた。
徐々に開く二人の距離には不思議そうに振り返る。
すると、が振り返るのをまるで見計らったかのようには顔を上げ、同時に大声で叫んだ。

「いつまでも子供扱いするなよなっ!」

そしてに背を向け、
立ち止まることもなくそのままパラダイスへと走り去って行った。

ショップでマナポーションを買い込んだは案内板を見上げながら行き先を確認する。
そして、ぐっと拳を握って目的のフィールドへと歩き出した。
準備はばっちりだ。
短剣と盾、そしてお気に入りのアヒルさんヘルムを装備し、
はいざアイテム集めに走る。

それから一時間が過ぎた。
カモノハシと格闘しながらも、ふと、を思い出す。
いつもの手助けをしてくれる
危なくなったら回復してくれるし、襲われそうになったら魔法ですぐに倒してくれる。
その存在は、とても大きくて、すごく頼りになるものだった。
だけど、ふと、にとってはどのように思われているのだろうと思い始めた。
自分は頼りにしているのに、と同じように頼りにしてくれてるのだろうかと、
そんな些細な疑問が浮かんだ時、
絶対違う、とは思った。
いつも助けてもらってばっかりで、いつも守ってもらってばっかりで、
を助けたことも、守ったこともなかったことに気付いた日から、
ふつふつと、の中に溜まっていった感情は「悔しさ」だった。

そして、それはに対してだけではないことに気付く。

を甘やかすし、
の前に立って守ってくれる。
一緒に強くなろうと誓ったは、今では立派な合成師だ。

パーティーメンバーがそれぞれ成長していく中で、
だけが置いていかれてる、そんな気持ちが拭えない、だけど、
言えなかった。
誰にも。

「拾わないの?」

突然そう声をかけられ、はハッとして顔を上げた。
いつの間にかカモノハシがばたんきゅーと倒れている。
そしてその周りには、カモノハシ人形が転がっていた。
「あ」
うっかり考え事をしていたせいでの反応は鈍る。
そして、目の前でにっこりと笑っているの優しい笑顔に見つめられると、
なぜか、急に心細くなった。
倒した後、いつもアイテムを拾ってくれたのはだった。
なにをいくつ集めたか、それが数百個の単位になっても、
はいつも全部把握していた。
一つ一つ数えながら、のポケットに入れてくれていた。
だからつい、甘えてしまって、モンスターを倒した後にアイテムを取るクセがなかったは、
慌てて落ちたままだったカモノハシ人形を拾った。
両手で挟むようにぎゅっと握ると、先ほど手渡してくれたの手にあった同じアイテムを思い出した。
「どうかした?」
深刻そうな顔でアイテムを見つめるの顔を、
は心配そうに覗き込んだ。
「あ、ううん、なんでもないっ」
は慌ててポケットにアイテムを入れる。
そしての返事を聞くとにっこりと微笑み、
唇の隙間から呪文を唱えると、の周りをキラキラと輝かせた。
「リカバリー!」
「え!?」
輝く魔方陣の中で、は驚きの声を上げる。
「気にしないで、挨拶みたいなものだから」
本を抱えながら微笑みを残して去っていくの背中に向かって、は思わず叫んだ。
「あ、待って!」
はくるりと髪を揺らしながら振り返る。
「あの、あのさ、君もイベントアイテム集めてるの?」
「うん」
「じゃあ、良かったらさ、……おれと一緒に集めない?」
今度はが驚く番だった。
どこか恥ずかしそうに顔を赤くして、
だけど必死に拳を握り誘いの言葉をかけてくるの姿に、
は髪をかきあげながら、「喜んで」と返した。





そんなの行動を、
背後で見守るパーティーがあった。
「ちょっと邪魔! 見えないでしょっ」
「静かにせんと、バレルで?」
こそ黙ってなさい!」
「へいへい」
物陰に隠れて(時には誰かの背中に隠れて)ここまでの動向を見守ってきた三人は、
じーっとを観察し続ける。
そもそも、が合流した時には、すでにはいなく、
ぶすっといつになく不機嫌なが一人でパラダイスショップの建物内で座っていた。
珍しいなと思いつつに近づいたが、
はいつになく機嫌の悪そうなに近づくのを躊躇いつつも、
強引に襟首を掴まれ、
その後、の提案で決まった尾行という名のストーカーにまで付き合わされる始末となった。
さすがに飽きてきたのか、
から一歩距離を置き、
髪の毛をいじりながら時間が過ぎるのを待った。





が一緒にアイテムを集め始めてから一時間が経った。
すでに掘り集めていたアイテムも合わせ、
すでに二人の手元には、
クエストクリアに必要な数が集まっていた。
「ありがとう、助かったよ」
「ううんこっちこそ、AAの威力はすごいわね」
褒められた……?
そんなこと、今まで誰も言ってくれなかった。
「あ、いやううん、そんなことないよっ」
照れるあまり、いつもより早口になる言葉。
はこれからメガロポリスに行くの?」
「うんそのつもり、は?」
「私は…パラダイスにでも戻ろうかな…」
「そっか、一緒にクエスト受けに行けたらいいなって思ったんだけど」
は残念そうに微笑みながら、首を軽くかしげながら言う。
「私、実はもうこのクエスト終わってるの」
「……え…?」
の手にあった最後のカモノハシ人形がぽとりと地面に落ちた。
は落ちた人形を拾い、に差し出しながら聞く。
「なのにどうして手伝ったのかって、思ってるの?」
の手からゆっくりと人形受け取ると、
泣きそうな顔で、こくりとうなづいた。

そんなつもりはなかった。
手伝ってもらうつもりなんて。
それが嫌でケンカして、それが嫌で逃げてきたのに、
なのに、初めて知り合った女の子に手伝ってもらったんだ。

悔しさが、再度の中でうごめいた。

は俯いたの頭を撫でながら言った。
「ねえ、聞いていい?」
はその続きが知りたくて、上目づかいでを見上げる。
「もし私がもうクエストが終わってたって言ったら、一緒に集めようって誘ってくれなかったのかな?」
「!?」
「一緒にアイテムを集めるのって、クエストが終わってる人じゃないとダメなの?」
そう言われ、の中の悔しさが一気に恥ずかしさへと変わった。
「おれ……」
「うん?」
「……おれ、役に立った?」
はうーんと、悩みながらもハッキリと答えた。
「そうだね、うん、役に立ったよ」
「どんなとこが!」
声を、荒げるつもりはなかったし。
本当にそう言いたかった相手はではないのに、
の姿を目の前のに重ねてしまい溢れる感情を抑えることが出来なかった。
「うんとね、君の笑顔」
「……へ?……」
はそれだけ言うと、最後にもう一度にリカバリーを浴びせ、
じゃあね、と嬉しそうに手を振りながら去っていった。
はそんなの背中を見つめながら、
涙を浮かべて思った。

違うよ。逆だよ。
おれの方が、君の笑顔に救われた。

は一度深呼吸をして顔を上げると、
メガロポリスへ行くために、ミランダの姿を探し始めた。





の後を追おうと動き始めたが、
それに続く者の気配が感じられず、不思議そうに振り返る。
すると、が向かおうとしたマリンデザート入口とは、逆の方へと歩き出していた。
「ちょ、ちょっとちょっと二人とも、どこ行く気!?」
は背を向けたまま片手を上げ「パスや」と言うと、
携帯電話を取り出し、どこかへと消えてしまった。
あんのヤローあとで覚えておきなさいよっ、と心の中でが毒づいていると、
は足を止めぽつりと振り向きざまに言った。
「用が出来た、後で連絡する」
その返事に、は腕を組んで仁王立ちになる。
「お言葉ですけど、今の以上に大事な用ってなにかしら」
怒っている。
普段はうるさいぐらいにきゃぴきゃぴと喋るは、
怒ると、その口調がいやみを込めた敬語に激変する。
けれど、の思いに気付きながらも、は質問に答えることもなく歩を進めた。
その態度に、は腕を振り上げながらだんだんと小さくなっていくに怒鳴った。
「ちょっとー! このままが戻ってこなくても知らないからねー!」
そんなこと、百も承知だ、と言わんばかりに、
は杖を一度だけ振り上げて応えた。


ピラミッドダンジョン−奴隷のホール。
は迷うことなく、右折する。
この先に道はない。
それでも、は険しい顔をしたまま歩き続けた。
そして、足を止める。
が立ち止まった直後、
行き止まりを思わせる高い壁の前に創られたファラオの棺の中から、
がひょっこり顔を出した。
「こんにちはさん」
「ヤメロ」
愛想良く挨拶をしたのにたった一言で一蹴され、はちぇっと軽く溜息を吐く。
「どういうつもりだ」
薄暗いダンジョンの中で浮かぶの顔は、
唯一の明かりでもあるろうそくに揺られるように照らされ、
は思わず視線を逸らす。
「どういうつもりってなにが?」
「誤魔化すな」
は、ファラオの棺に腰掛ながらぽつりと答える。
「別にー深い意味も下心もないよ」
の言葉に疑いのまなざしを向ける。
は苦笑しながら「本当ですよ」と言いながら笑顔を浮かべた。
「たまたまだよ、たまたま。たまたま声をかけたら、兄貴のお気に入りのあの子だっただけ、ホントだってば」
弟を信じろ、と強くを睨んではみたが、
の表情が和らぐことはなく、は諦めたように肩で息を吐きながら立ち上がった。
「だけどさ」
とすれ違いざま、を見上げながら言った。
「あの子、悩んでるみたいだったよ」
その言葉に、ようやくの周りに広がっていたぎすぎすとした空気が収まり始めた。
「なんかさ、自信がないみたいだった」
「…自信?」
「うん、ボクにさ、”おれ、役に立った?”って聞いてきたんだよね」
の言葉を受け取り、考え始めたことに気付くと、
に見せた笑顔で、「それじゃあ、またね」とウインクをして去っていった。





は最後のクエストでもらった報酬をポケットにしまうことなく手にしたまま駆け回った。
いつものメンバーがいる溜まり場が見えると、は手を振って「おーい」と声をかける。
周りでの声に反応して振り返る人を横切り、
はいつものように言い合いをしているの前でぴたりと足を止めた。
「見てみて、クエストクリア出来たんだぜ」
手の中できらりと光るアイテムを一度見つめたは、
すぐにを見つめ、にっこりと満面の笑顔を浮かべると、
ぎゅっとを抱きしめた。
「すごいじゃな〜い☆ 一人で頑張ってのね♪」
の腕の中で、は眉を垂らして言った。
「ううん、に……司書の女の子に手伝ってもらったんだ」
「……そう、でもクリア出来たことに変わりはないわ」
「うん」
を離すと、目線を同じ高さに合わせ「おめでとう」と言った。
その直後に見せたの笑顔を、
の背後から確認すると、
良かった、とホッと胸を撫で下ろした。
「離れろ」
頭上で声がした。
は同時に顔を上げる。
「あ!」
の腕の中でを見つけたは、
たった数時間前にケンカ別れしたことなどすっかり忘れてしまったかのように、
先ほど達に見せた時と同じように、
手のひらに宝石を乗せたまま、に見せる。
「ほらほら見てみて、ちゃんとクエストクリア出来ただろ」
「…ああ、良かったな」
の頭を撫でながら、手を引くのを惜しむを見たの顔は、
楽しそうに、だけどいじわるそうににやにやとニヤつき始めた。
「気をつけないとダメよはまーだクエスト終わってないんだから」
せっかくもらった宝石、取られちゃうわよ、とは付け足す。
「……え? ウソ!?」
は驚く。
そりゃあいつもは、一緒にクエストを受けて一緒にクリアしていたけど、
だけど、いつもよりも早くアイテムを集め終わっていたし、
一緒に集めなくても、は一人で行動した方が、
効率よく、器用に終わってしまうのだろうと思っていたは、
唖然としながらを見た。
「ホ・ン・ト、だよね」
「……ああ」
に適当に返事をする。
「どうして?」
「………」
本当に分からないのだろう。
首をかしげながら見上げるの瞳は決して濁っていなかった。
言葉を挟まないとずっと見つめ合ったままなのではないかと思ったは、
溜息を交えながら代わりに答える。
がいなかったから、でしょ」
「え?」
の答えに驚いたは、慌ててへと振り返る。
「感知力ないし、ポケットはすーぐ満タンになっちゃうし……防御型ってこういう時不利よねー」
それは、のことを言っているのか、
自分達のことを言っているのか分からない口調だったが、
は天を仰ぎながら、に同意を求める。
「お前が必要だ」
の横を通り過ぎながら小声で伝える。
ころころ、と思わずの手から落ちた宝石が地面を転がり、
メンバーの足元で止まると、は涙でにじんだ視界の中でぼやけていくみんなを見た。
きっと、もうすぐも合流するはずだ、
そして、今頃モンスタークエストに励んでいるはずのもやってくるだろう。
そしたら。そしたらみんなで、掘りに行こう。


まだ、イベントは終わらない―――。


「おれ、のためにいっぱいいっぱいいーっぱい頑張って掘るよ!」
ぎゅっと拳を握って張り切るに、
は、優しそうな笑みを向けて「ああ、頼りにしている」と言った。
ふと、その笑顔がと重なった。
また、会えるといいなと思う。
そしたら、たくさんお礼を言おう。
そして、今度は仲間として誘ってみようと、は思った。
は転がったままの宝石に手を伸ばし、に渡そうと宝石を拾い上げたのだが、
直後、「そういえば、今日知り合ったって、笑うとなんだかに似てたんだよなー」という一言に、
寒気と同時に鳥肌が立ち、ぽとり、とまた宝石は地面へと落ちた。




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Thank you for 2222 !!



おまけという名の後日談。